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Serie del Caribe 2007

 カリビアン・シリーズ 2007

 カリビアンシリーズ総括

今年で49回目を迎えるカリビアンシリーズがプエルトリコのロベルト・クレ メンテ球場で2月2日から6日間の日程で行われた。

昨年からMLB.comがカリビアンシリーズにも力を入れるようになり多くの情報 を日本にいながらにして手に入れることができるようになったが、今回筆者が 現地に出向いて観戦してきたので日本で伝えられなかった生の情報をここでレ ポートする。

まず今回の出場チームを紹介しよう。ドミニカ共和国からアギラス・シバエー ニャス(シバオ・イーグルス)、メキシコからナランヘロス・デ・エルモシー ジョ(エルモシージョ・オレンジマンズ)、ベネズエラからティグレス・デ・ アラグア(アラグア・タイガース)、そして開催国プエルトリコからはカロリ ーナ・ヒガンテス(カロリーナ・ジャイアンツ)の4チームが自国のリーグを 勝ち上がり各国の代表として参加してきた。

下馬評ではドミニカがやや優勢であったが過去3年間は開催国が優勝しており 地元プエルトリコのカロリーナ・ジャイアンツにも大きな期待がかかった。特 にカロリーナは試合が行われるロベルト・クレメンテ球場をホームグラウンド として使用しており2000年から遠ざかっているプエルトリコの優勝が地元 ファンの切なる願いだった。

大会の詳細結果は公式サイト(http://www.seriedelcaribe2007.com/)などで確 認していただくとして、大まかに総括を述べていくことにする。

まず大会は開幕第一試合目から歴史に残る一戦となった。

開幕カードのドミニカ対ベネズエラが延長18回、6時間14分の熱戦となり、 試合時間をはじめ打席数などの多くがカリビアンシリーズの新記録として記録 された。

元々この大会は各日に2試合が組まれ第1試合が午後4時試合開始、第2試合 が夜の8時試合開始と予定されていたが、初日は第一試合が大幅に遅れたこと もあり第2試合が始まったのが日付も変りそうな夜中の11時49分という時 刻だった。

そして大会はドミニカとプエルトリコが連勝し3日目にライバル決戦を迎える こととなった。この2国は野球に関して永遠のライバルであり正に日本と韓国 のように国と国のプライドをかけた戦いが毎年続いている。特にカリビアンシ リーズの中でもプエルトリコで行われるプエルトリコ対ドミニカ戦だけが唯一 球場の応援団の数が五分五分となる組合せであり、応援合戦という意味では最 も盛り上がるカードである。その訳はプエルトリコには多くのドミニカからの 移民が住んでおり彼らがここぞとばかりに大挙球場に押し寄せるためであり、 この時ばかりは試合前からスタンドで立ち並ぶ大量の両国の国旗を背にグラン ドの熱気も最高潮に達する。

そして優勝を予想するこの1戦はドミニカがプエルトリコに12−0の大差で 勝利し自力の差の違いを見せつけた格好となった。その後ドミニカ、プエルト リコの両チームが勝ち続けたが5日目にプエルトリコがベネズエラに負けたた ため最終日を待たずしてドミニカの優勝が決まることとなった。

これでアギラスは5度目、ドミニカとしては14度目のカリビアンシリーズ制 覇でありドミニカはここ10年間で6度の優勝と圧倒的な力をここでも証明す る結果となった。監督のフェリックス・フェルミンはこれで3度目のカリビア ンシリーズ制覇であり単独で歴代最多勝監督の座についた。その他の結果は2 位にプエルトリコ、3位にベネズエラ、そしてメキシコは2大会連続の最下位 となった。

それでは個々のチームについて短評を述べたい。

まず優勝したドミニカから。 今回のドミニカの勝因は何と言っても投手力、守備力の勝利だろう。ドミニカ といえば強打者揃いの打撃のイメージがあるが今大会はデフェンスが非常に安 定していた。投手陣は大会通算62回1/3で自責点がわずかに6点、防御率 は0.87という驚異的な成績を残した。また守備においても補強選手として 加入したアンダーソン・ヘルナンデスなどがいい守備を見せ何度もピンチをフ ァインプレーで救った。

ドミニカ人の野球ファンは自分達の国のことを「野球の工場(Baseball Factory、スペイン語:Fabrica del beisbol)」と誇りを持って言う。確かに レベルの高い選手を次から次へと輩出するところはさながら工場のようであり、 今大会を見ていても守備、走塁、打撃の技術もさることながら野球に対する勝 負強さは特別のものを感じた。

来年のカリビアンシリーズはその野球の工場ドミニカで行われる予定であり記 念すべき第50回大会でもある。通常なら首都のサントドミンゴのキスケージ ャ・スタジアムで行われるのだろうがまだ詳細は確定しておらず、初めて地方 都市のサンチアゴで開催される可能性が高いであろうとのこと。いずれにして も記念すべき節目の大会なので今までにもまして盛大に行われることであろう。

次はメキシコ。 前々回の地元開催での優勝から連敗が続いていたが最終戦で勝利してようやく 悪い流れをストップすることができたことが唯一の明るい話題だった。全般を 通してメキシコには不運な判定が続きチャンスを生かせなかったことが多かっ たようにみえた。しかしながら大会前半で大量失点による連敗を喫したにもか かわらず後半ではチームを立て直し安定した試合運びだったところはさすが野 球大国だ。

ところでMLBとカリブプロ野球連盟との間で締結されている協約、通称ウィ ンター・リーグ・アグリーメント(WLA)では2月8日をウィンターリーグ の期限とすることが定められているがカリブプロ野球連盟は来年以降その期限 を少なくとも2月12日に伸ばすことをMLBに対して要求する模様だ。これ は参加国を増やそうという意図と優勝決定戦を行いたいということが考慮され ているらしい。

確かに今回のメキシコ、ベネズエラは早々に連敗してしまい優勝の目が無くな ってしまった。こういうチームのモチベーションを失わせないためにもリーグ 戦の1位と2位で最終日に優勝決定戦を行うことで大会がより盛り上がるだろ うと予想されるからだ。しかし期限を延ばすことは諸刃の剣であり、スプリン グトレーニングの時期にずれ込むことを嫌うMLBの球団が所属選手に対して カリビアンシリーズ出場を禁止することが今より更に増えることも予想される ため慎重な議論が必要だろう。

ベネズエラ。 これはメキシコにも同じことが言えるのだが肝心なところでのエラーが多かっ た。大会通算でドミニカ、プエルトリコ、メキシコがそれぞれチームエラー5 個なのに対してベネズエラは倍の10個を記録した。初戦の延長18回の試合 もエラーによる自滅で敗れたが、もし初戦に勝っていれば十分波に乗るチャン スはあったと思うのは筆者だけではなかろう。それから昨年の地元優勝の時と 比べてやはりメンバー的に2〜3ランクくらいは落ちた構成だった。

直前でフロリダ・マーリンズの主砲ミゲール・カブレラが球団から参加の許可 が下りず不参加、また毎年カリビアンシリーズに参加している西武ライオンズ のアレックス・カブレラも不調のため今大会は参加せず打線に迫力が欠けてい たことは事実だろう。

それからベネズエラに関しては昨年のレポートにも同じようなことを書いたの だが政治的な話を少ししたい。実は今大会の公式スポンサーの一つにベネズエ ラの大統領のウーゴ・チャベスの名前があった。チャベスは昨年の12月に大 統領選挙で再選を果たした後もますます反米の色を強くし、キューバ、イラン など世界中にチャベス・ネットワークを作ろうと必死だ。

また今回のカリビアンシリーズは北中南米だけでなく初めてヨーロッパにも衛 星中継された。チャベスがこれを利用しようとしたのかどうかは不明だが球場 の外野フェンスに大きく「ベネズエラ万歳!(Arriba Venezuela Bolivariana!)」と書かれた看板をかかげただけでなくベネズエラの選手が打 席に入るたびにも同じアナウンスを流した。

さすがにベネズエラの選手の口からは政治とスポーツは別だという言葉しか聞 かれなかったが、野球のみならず今後ラテンアメリカを語る上ではベネズエラ (ウーゴ・チャベス)の動向を見過ごすことはできないだろう。

プエルトリコ。 またもや地元開催でドミニカに優勝をさらわれてしまった。チーム打率は参加 国で最高だったものの3日目の直接対決となったドミニカ戦で負けたことが直 接の敗因だろう。あえて優勝できなかった原因を挙げるなら先発投手の駒が不 足していたことだ。

SFジャイアンツのプロスペクト、ジョナサン・サンチェスが大会前日に球団 からの参加許可が降りずに急遽出場できない事態になった。その結果、代理と いう形でドミニカ戦で登板することとなったジョナサン・アルバラデホが乱調 だった。またリーグ戦で好成績を残した外国人投手ブルース・チェンとビル・ プルシファーが参加しなかったことも痛かった。しかしプエルトリコは宿敵ド ミニカに9連敗中だったが最終戦のサヨナラ勝ちでようやく連敗を止めたこと で地元ファンにとってはせめてもの慰めとなった。

また今回のプエルトリコチームではMLBでMVPを2回獲得しているフアン・ ゴンザレスが4番の座を務めた。さすがに往年の豪快なHRは減ったものの今 大会でも全チーム中4位の打率を残したようにバッティングに対する勘は劣っ ていないことを見せつけた。それよりもMLB復帰へのやる気を見せたことは 本人にとっては大きな意味があり、もう一度なんとかMLBで彼の雄姿を見た いものだ。

次に今回筆者が現地に出向いてあらためて深く感じたことを述べたい。

カリビアンシリーズの魅力の一つはいろいろなステータスの選手が参加してい ることだ。

ミゲール・テハーダのようにMLBのトップレベルの選手がいるかと思えば、 ルイス・ポローニャのように地元チームで今もプレーする選手、フアン・ゴン ザレスや今大会のMVPを獲得した元ソフトバンクのトニー・バティスタのよ うにMLB復帰を目指す選手、ホセ・フェルナンデスのように日本のプロ野球 に所属する選手、メキシコ人スター選手のビニー・カスティーヤのようにこの 大会を自らの野球人生の最後に選ぶ選手、奪三振王のタイトルを獲得したプエ ルトリコのジャンカルロ・アルバラード(SEAのマイナー)とヨハン・ピノ (MINのA)のように将来のスターを目指す若手プロスペクト選手など選手のス テータスは本当に様々だ。

とにかく世界中の全プロスポーツを対象にしてもこれだけ異なるステータスの 選手が集まって一つの大会で戦うことはおそらくこのカリビアンシリーズを除 いて他に存在しないのではないだろうか?

確かにWBCのようにベストの布陣でナショナルチームを組む大会ももちろん 面白いが、このような“ごちゃ混ぜ”チームが国の代表として戦っているとこ ろは野球の勝敗だけでなく野球人生の縮図を見ているようで何とも感慨深い。

そしてもう一つの魅力は何と言っても選手とファンとの距離が近いこと。物理 的に近いことも当然だが精神的な距離が近く感じることはまぎれも無い事実だ。

サインを拒否する選手は皆無と言っていいくらいで、試合中でもファンのみな らず記者、セキュリティなどの関係者さえにも気前良くサインしたり話しかけ たりする。全く見ず知らずのファンからいきなりファーストネームで呼びかけ られても笑顔で手を振る選手たち。これだけは実際に現地で体験しないとその 雰囲気を伝えるのはなかなか難しい。

また今大会には多くの元(現)NPB選手がプレーした。

ざっと挙げてみると、ヘクター・アルモンテ(元巨人)、サンチアゴ・ラミレ ス(中日)、トニー・バティスタ(元ソフトバンク)、ホセ・フェルナンデス (楽天)、ペドロ・フェリシアーノ(元ソフトバンク)、コリー・ベイリー (元巨人)、サイモン・ランドール(元オリックス)、エルマー・デセンス (元巨人)、カリム・ガルシア(元オリックス)の9名であるが、元所属チー ムが巨人、ソフトバンク、オリックスに偏っているのが興味深いところだ。

ミゲール・テハーダについて少し述べたい。

この“名物”選手については本当に頭が下がる思いであり、カリブの野球ファ ンにとってはテハーダについてどれだけ敬意を表わしても表しすぎることは無 い。テハーダは今大会で8年連続10度目の出場を達成しただけではなくトニ ー・アーマス・Srの持つカリビアンシリーズのホームラン記録11本に並ん だ。

これほどの実績のある選手である上にその野球に対する姿勢がいかに尊敬に値 するかは大会直前の本人のコメントを載せれば分かっていただけるだろう。

「(カリビアンシリーズに出場することは)名声やお金を必要としているから ではない。自分に与えられた仕事を成し遂げるためと自分の子供達に国を代 表することができる名誉を感じてほしいからだ。」

最後に。 これは日本のメディアでは全く報じられていないのだが優勝したドミニカのア ギラスの中に日本人のスタッフがトレーナーとして参加していた。スミダ・ワ タリさんという方がその人で現在フィリーズのマイナー組織でトレーナーとし て活躍されている青年だ。

筆者の記憶では日本人がカリビアンシリーズに参加するのは選手・スタッフを 通じても初めてのことであり、それだけでも十分記念すべきことであるのだが 一気に優勝まで達成してしまった。WBC以降日本の野球にも注目が集まる中、 このようにスタッフとはいえ日本人がカリビアンシリーズ優勝に貢献したこと を筆者も同じ日本人として誇りに思う。

 (この記事は、メールマガジン・Baseball Monthlyに記載されたものです。)